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お酒は何時間で抜ける?「一つの数字」で言えない理由

「ビール1本なら何時間で抜ける?」——よく検索される問いです。早見表や計算機もたくさんあります。便利なのはわかります。けれど正直に言うと、誰にでも当てはまる一つの数字は存在しません。なぜそう言えるのか、そして「だいたいの目安」をどう扱えばいいのかを、厚生労働省の情報をもとに整理します。

先に大事なことを。この記事は、運転してよいかどうかを判断するためのものではありません。その理由は後半にあります。

まず「純アルコール量」で考える

お酒の「量」は、見た目のmlではなく、含まれる純アルコールのグラム数でそろえて考えます。

純アルコール量(g) = 飲んだ量(ml) × アルコール度数(%) ÷ 100 × 0.8(アルコールの比重)

たとえば5%のビール500mlなら、500 × 0.05 × 0.8 = 20g。これが「1単位」とよく呼ばれる量です。体に入ったアルコールは胃で約25%、残りの大部分が小腸で吸収され、ほぼ全量が血液に移ります。[2] だから飲んだ純アルコール量が、そのまま血中アルコール濃度の高さに効いてきます。[1]

飲んだ量から純アルコール量やおおよその時間を自分で出す手順は、計算のしかたをまとめた記事計算ツールにまとめています。

「1時間に体重×0.1g」という目安と、その限界

分解の速さには、よく使われる目安があります。「1時間あたり、体重(kg)×0.1g くらいの純アルコールを分解する」というものです。これでいくと、純アルコール20g(1単位)は体重60kgの人でおよそ3〜4時間、2単位なら6〜7時間、という早見表になります。

ただ、ここが肝心です。この数字は多くの人を平均したときの値にすぎません。アルコールの代謝のほとんどは肝臓で行われますが、その速さは、その人が持つ酵素の遺伝子型・体格・肝臓の大きさ・ふだんの飲酒習慣などによって大きく変わります。[1][5] しかも変わるのは「下りていく速さ」だけではなく、どこまで濃度が上がるか(出発点)も、ばらつきます。[6][7]

変わりうる要因抜ける時間への向き
体格・体重小柄なほど濃度が上がりやすく、抜けるのに時間がかかりやすい
食事の有無空腹だと吸収が速く、立ち上がりが急になりやすい
体質(分解酵素のはたらき)アルコールを分解する酵素のはたらきに、生まれ持った差がある
その日の体調・睡眠疲れや睡眠で、ふだんより遅くなることがある
飲酒の習慣習慣的な飲酒は、代謝の速さにかかわる

具体例:中ジョッキを2杯飲んだら

中ジョッキ(5%・約435ml)を、30分あけて2杯。下の図は、飲み始めから60分後あたりの「見え方」を概念的に描いたものです。多くの早見表やアプリは、この瞬間の濃度を「◯◯%」という一つの値で出します(灰色の点)。でも実際には、体質や体調しだいで上にも下にもぶれます。だから、濃い側にも余裕を持たせたで見るのが正直です(オレンジの帯)。同じ「いま」を、点で見るか、幅で見るか——その違いです。

1杯目 2杯目 Nomicho:幅で見る 他の多く:一つの値 0306090120180 飲み始めからの時間(分) 濃度(高い↑) 帯=推定の幅
中ジョッキを30分あけて2杯。t=60分のときの見え方(概念図)

「早く抜く方法」はあるのか

水を飲む、コーヒーを飲む、サウナで汗をかく、仮眠をとる——よく言われますが、これらで分解そのものが速くなるわけではないとされています。むしろ眠っている間は分解がゆっくりになるとも言われます。酔いを早く覚ます特効薬はなく、濃度が下がるのを左右できるのは、これ以上飲まないこと時間が経つことだけです。

運転について — 「たぶん抜けた」は理由にならない

ここははっきりさせます。どんな推定も、運転してよいかどうかの判断には使えません。 日本の道路交通法では、呼気1Lあたり0.15mg以上のアルコールで酒気帯び運転となり、基準は非常に厳しく定められています。さらに、濃度にかかわらず正常な運転ができない状態なら酒酔い運転です。

早見表も計算機もアプリの推定値も、実際に測ったものではなく、入力からの見積もりにすぎません。「もう抜けているはず」は、ハンドルを握る理由になりません。確実に知りたいなら、飲んだら運転しない——それが唯一の答えです。

「抜けた」と「二日酔いがない」は別の話

血中アルコール濃度がほぼゼロまで下がった(=「抜けた」)からといって、翌朝つらくないとは限りません。二日酔いは、実はそのメカニズムがよくわかっていません。長らくアセトアルデヒドが原因とされてきましたが、二日酔いの状態で血中にアセトアルデヒドが検出されることはまれで、軽い離脱症状・脱水・低血糖・睡眠の質の低下・お酒に含まれる微量成分(コンジナー)など、複数の要因が重なって起きるという見方が有力です。[3][4] お酒で赤くなりやすい(ALDH2のはたらきが弱い)体質の人ほど、つらさが出やすいことも知られています。つまり「濃度が抜ける時間」と「翌朝のコンディション」は、別々に考える必要があります。二日酔いの重さがどんな要因で決まり、どう見積もれるのかは二日酔い予報の記事でくわしく扱っています。

Nomichoでの見え方

Nomicho(飲み帳)は、この「一つの数字では言えない」という事実を、そのまま設計に映しています。濃度の見通しを上の図のようなで示し、抜けるのが遅い側に余裕を持たせます。「いつ運転できるか」を教えるものではなく、自分の体でお酒がどう動くのかを、好奇心から眺めるための目安です。

参考

  1. [1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解
  2. [2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「血中アルコール濃度
  3. [3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「二日酔いのメカニズム
  4. [4] NIAAA(米国国立アルコール乱用・依存症研究所)「二日酔い(日本語版)
  5. [5] Jones AW. Evidence-based survey of the elimination rates of ethanol from blood. Forensic Sci Int. 2010(消失速度 β の平均と、その個人差の幅)。
  6. [6] Watson PE, Watson ID, Batt RD. Total body water volumes for adult males and females from simple anthropometric measurements. Am J Clin Nutr. 1980;33(1):27–39.(体格から体水分量を出す式。同じ量でも濃度がどこまで上がるか=出発点が体格で変わることの基礎)
  7. [7] Forrest ARW. The estimation of Widmark's factor. J Forensic Sci. 1986(女性の式。Searle 2014 による再導出)。

飲み帳が実際にどんな式と一次資料でこれを計算しているかは、予測の方法論で公開しています。

本記事は一般的な情報であり、医学的・法的な助言ではありません。グラフは説明のための概念図で、特定の人の数値を示すものではありません。